ドイツを漢字で「独」は差別的だ-。東京都八王子市に住む本紙読者でドイツ国籍の漢字研究者、クリストフ・シュミッツさんが自費出版した漢字字典英訳版で、こう訴えているそうです。
形から人々の思想が読み取れる漢字に魅了され、奥深さを西洋の人にも伝えようと十二年かけて英訳した字典。それだけに、母国の表記には納得できないようです。
シュミッツさんは、ドイツのデュッセルドルフ大学で哲学や西洋、日本の歴史を学んでいた一九九七年、漢字研究の第一人者の白川静さん(一九一〇~二〇〇六年)のインタビュー記事が載った日本の新聞を読み、説得力を感じたそうです。
その後、東京大の研究生だった二〇〇三年に白川さんを訪ねた際、著書の漢字字典「常用字解」の出版前の原稿を見せてもらいました。常用漢字の成り立ちと奥深さの分かりやすい解説に感動し、翻訳を決意したそうです。
欧米では、漢字を造形美として評価する動きもありますが、その成り立ちまで詳しく解説した字典はほとんどないそうです。白川さんの学説を世界に伝えるため、母国のドイツ語ではなく英語版を作ることにしました。
「同じ文字でも音読み訓読み、複数の意味がある。複雑な漢字をアルファベットで説明するのは難しかった」と笑うシュミッツさん。東京大の研究生を終えた〇四年以降も日本で生活し、語学講師などをしながら英訳を続けたそうです。
「『口』という漢字は、『信』『告』など宗教に関係する文字に多く使われています。字源が人間の口の形ではなく、神への祈りを記した祝詞を入れる容器に由来しているから」。文字それぞれの由来、背景から社会状況も見えます。「漢字は文字の宇宙のようです」
それだけ漢字を愛するシュミッツさんが嫌いな漢字が、ドイツの当て字「独」だそうです。
獣偏を使っていることに、差別視がうかがえるといいます。
「漢字を知るドイツ人としては、この文字は変えてほしい」。白川さんも生前、シュミッツさんの主張を聞いたとき、「それが日本人の中華思想ですよ」と、差別意識が文字に表れていると同意したそうです。
新聞を読んでいて、ドイツの出来事を報じた記事の見出しに「独」があると悲しい気持ちになります。「余計な意味が込められないよう、漢字を使わない国には当て字をせず、カタカナで統一してほしい」
英訳版「常用字解」は一万五百八十四円。巻末に白川さんの功績、自身の経験を踏まえた漢字の勉強のコツも盛り込んだということです。
◆識者談話 音読みを拾ったものではないか
<京都大人文科学研究所付属東アジア人文情報学研究センターの安岡孝一教授(人文情報学)の話> 国名の当て字の由来ははっきりしない部分が多いが、ドイツ(独逸)の場合、「独」と「逸」の2文字に関連性はないことなどから、音読みを拾ったものではないか。
<白川静> 福井市出身。3000年以上前の中国の甲骨文字を研究し、漢字の字形には呪術(じゅじゅつ)や祭祀(さいし)にかかわるものが多く含まれるとする「白川文字学」を打ち立て、2004年に文化勲章を受章。
「常用字解」は、03年に中高生向けに執筆した入門書。出版当時の常用漢字1945文字の字源や用例を解説しています。
単なる当て字で、差別的な意味はないと思いますが。。。Image may be NSFW.
Clik here to view.