アメリカのトランプ大統領は、中東のエルサレムをイスラエルの首都と認めた上で、現在、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転する方針を決めました。国際社会はエルサレムをイスラエルの首都とは認めておらず、今後、パレスチナだけでなく、イスラム諸国が強く反発するのは確実で、国際的に大きな波紋が広がりそうです。
トランプ政権の高官が5日、明らかにしたところによりますと、トランプ大統領は、エルサレムをイスラエルの首都と認める方針を決め、近く、国務省に対して、現在、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転する準備を開始するよう指示するということです。トランプ大統領は6日にこうした考えをみずから発表する予定です。
中東のエルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地があり、イスラエルは首都だと主張していますが、イスラエルの占領下にあるパレスチナ側も将来、国家を樹立する際の首都にするとして主張が対立していて、国際社会はイスラエルの首都だとは認めていません。トランプ大統領は、去年の選挙期間中、大使館のエルサレムへの移転を公約に掲げていましたが、中東和平への影響などを踏まえ、移転についての判断をことし6月、半年間、先送りしていて、対応が注目されていました。
トランプ大統領は5日、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長やヨルダンのアブドラ国王らと電話で相次いで会談し、アメリカ大使館をエルサレムに移転する意向を伝えましたが、パレスチナなどは早速反発しています。このため、大使館の移転が実現するのか、具体的なめどは立っていません。
トランプ大統領としては選挙中の公約を守り、改めてイスラエル寄りの姿勢を打ち出す狙いがあると見られますが、イスラム諸国が強く反発するのは確実で、国際的に大きな波紋を呼ぶことになりそうです。
今回の決定を受けてイスラエルと隣国のヨルダンにあるアメリカ大使館は、抗議行動が広がり、現地にいる国民が危険にさらされるおそれがあるとして、群衆が集まる場所を避けるなど、安全に注意するよう呼びかけています。さらに、アメリカ大使館の職員とその家族に対しては、エルサレムの旧市街やヨルダン川西岸への外出を禁ずるとしています。
国務省のナウアート報道官は、5日の記者会見で「治安の悪化を懸念する報道が相次いでおり、状況を注視し続けている」と述べ、アメリカ国民の安全の確保に全力を挙げる考えを強調しました。
イスラエル・パレスチナ問題に詳しいワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所のネイタン・サックス氏は、今回の決定の背景にあるトランプ大統領の思惑について「国内の支持者向けにアピールする狙いが大きい。トランプ大統領を強く支持する人々には歴代の大統領とは大きく異なり、型破りであることが魅力になると大統領は認識している。『これまでのやり方は気にしない』という政治的なメッセージをあえて発信するのがトランプ流のやり方だ」と分析しています。
そして、今回の決定による影響については「エルサレムというのは大きな爆発物にもなりうる問題で、今やその危険は現実味を帯びている。暴力がパレスチナだけでなく、周辺のアラブ諸国や、さらにはほかのイスラム諸国にも波及するおそれがある」として、決定に対する反発が暴力につながることに懸念を示しました。
菅官房長官は午前の記者会見で、「アメリカのトランプ大統領が近く公式な決定内容を発表することは承知している。わが国としては、累次の国連の安保理決議に基づき、エルサレムの最終的地位の問題も含めて、当事者の合意等に基づいて当事者の交渉で解決されるべきであるという立場であり、重大な関心を持って注視している」と述べました。
また菅官房長官は、テルアビブにある日本大使館について、「移転する考えは持っていない」と述べたということです。
いったいどうなるのでしょうか?