現地でも感動的な光景だと伝えられました。ですが、本人は案外そうでもないのかもしれません。MLBアナリストの古内義明氏がレポートします。
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9回裏。先頭打者のイチローが内角高めのフォーシームを捉えた。打球はライトスタンドで待つ熱狂的なマリナーズ・ファンのグラブに収まった。「(ファンが)全部期待以上のもので表現してくれるから、本当に打てて良かった」。イチローにとってメジャー通算115本塁打。セーフコ・フィールドでは通算54本塁打となった(球団史上5位タイ)。さらに、この今季第1号によって、メジャーに渡ってから17年連続本塁打、日米通算では25年連続というメモリアルアーチとなった。
12年半プレーしたシアトルに凱旋したイチローだったが、開幕からこの日まで刻んだヒットはわずかに1本。それでも、マリナーズが生んだ稀代のヒットメーカーに対して、ファンはスタンディングオベーションで迎えた。2012年4月18日以来となるセーフコ・フィールドでの一発に、「イチローコール」の波はダイヤモンドを一周して、最高潮に達した。
過去、ランディ・ジョンソン、ケン・グリフィー・ジュニア、アレックス・ロドリゲスなどなど。マリナーズで育った大物たちは次々とシアトルを去った。金銭的な理由がほとんどだが、マネーゲームになれば、マーケットの小さいマリナーズは分が悪かった。2012年のシーズン途中、イチローのヤンキースへの移籍は高額年俸をめぐる球団の方針転換が主たる理由だった。
イチローが在籍した間、プレイオフに出場したのは1年目だけ。球団の方針に一貫性があったとは決して言えず、投打がかみ合わないマリナーズにファンが望むような結果はついてこなかった。マリナーズでの晩年は特に、イチローに対する風当たりは強かった。移籍直前の会見で、孤高の天才が流した涙には、無念の思いが少なからずあったはずだ。
この日、マリナーズは入場者に、イチローのバブルヘッド人形を配布した。マリナーズとマーリンズという2球団のユニホームを着たコラボ人形は異例中の異例のプロモーションだった。それを求めて、ウィークデイに2万7147人のファンが詰めかけ、いまだ衰えないイチロー人気を見せつけた。
MLBの公式サイトは、この夜の出来事を「最後のセーフコ・フィールドで、イチローが感動的な本塁打」という見出しで伝えた。また、ホームランボールを捕ったケビン・シャノンさんは、「イチローは偉大な選手に1人。私の中にある野球魂の一部は、イチローのものでもある」と感慨深く話し、イチローにそのボールを返し、御礼にサイン入りバットをプレゼントされたという。
イチローが移籍してから6年の歳月が流れた。いまのマリナーズのラインナップに、イチローのように突出した成績を残す選手はいない。そして、いなくなってから、あらためて、分かることもある。この日のイチローのホームランは、彼がシアトルで残して来た軌跡の素晴らしさを再確認するものだった。
地元テレビ局の実況アナウンサーは、「43歳のイチローにとって、これがセーフコ・フィールドでの最後の打席になるかもしれません」と語ったが、当の本人はまるで違った。「I think I’ll be back.(また戻って来るよ)」と、やる気満々。
再びイチローがセーフコ・フィールドでホームランを打てるかどうかは、野球の神様しか知らない。だが、引退して5年後のいつの日か、イチローに野球殿堂入り資格が与えられた時、彼がマリナーズのユニホーム姿で、殿堂入りすることだけは間違いないだろう。
頑張れ、イチロー!
今季も多くのベテラン選手が開幕から活躍を見せているメジャーリーグ。
米スポーツサイト「ブリーチャー・レポート」では、35歳以上の選手の「トップ10ランキング」を選出する特集記事を組んだそうです。
日本人選手では、イチロー外野手(マーリンズ)、上原浩治投手(カブス)が「特別賞」に選出。
ですが、現在の成績をもとに「格付け」しているため、偉大な実績を誇るイチローもトップ10入りは果たせず。
「すまない」と異例の“謝罪”が添えられていたそうです。
